中小企業向けBCP:災害リスクから事業を守る!重要業務特定と対策の基本
はじめに:災害への備え、何から始めますか?
近年、自然災害の頻発化は、多くの企業にとって避けて通れない経営課題となっています。特に中小企業においては、一度事業活動が停止してしまうと、その後の復旧が困難となり、廃業に追い込まれるケースも少なくありません。
「事業継続計画(BCP)の重要性は理解しているものの、何から手をつけて良いか分からない」「専門知識や社内リソース、時間、コストに制約がある」—このようなお悩みを持つ中小企業の経営者様は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、BCP策定の第一歩として、中小企業の皆様が限られたリソースの中でも実践しやすい、「自社にとって最も重要な業務(重要業務)」の特定とその業務を守るための基本的な対策について、分かりやすく解説いたします。
なぜ「重要業務の特定」がBCPの鍵となるのか
BCPの最終的な目的は、自然災害などの緊急事態が発生した場合でも、事業活動を継続し、または早期に復旧させることにあります。しかし、企業が持つ全ての業務や資産を一度に守り切ることは現実的ではありません。
そこで重要となるのが、「重要業務の特定」です。これは、緊急事態が発生した際に「これだけは絶対に止められない」「これを止めてしまうと事業そのものが立ち行かなくなる」という、企業の存続に直結する中核的な業務を見極める作業です。重要業務を明確にすることで、限られた人手や資金、時間を最も効果的に配分し、効率的かつ実用的なBCPを策定するための土台を築くことができます。
ステップ1:自社の「重要業務」を洗い出す
まずは、ご自身の会社でどのような業務が行われているかを把握することから始めましょう。
1. 全ての業務をリストアップする
日々の業務から、月に一度、年に一度といった周期の業務まで、会社で行われている全ての業務を書き出してみます。部署ごとや担当者ごとに協力してリストを作成すると、抜け漏れなく洗い出すことができます。
2. 各業務の重要度を評価する
リストアップした業務一つひとつについて、「もしこの業務が止まったらどうなるか」という視点で評価を行います。以下の観点を参考に、重要度を判断してください。
- 顧客への影響: 業務が停止した場合、顧客の事業活動や生活にどの程度の悪影響が生じるか。
- 法的・契約上の義務: 業務が停止することで、法的な罰則や契約違反が発生する可能性があるか。
- 収益への影響: 業務が停止した場合、会社の売上や利益にどの程度の損失が発生するか。
- 代替手段の有無と難易度: その業務が停止した場合、他の手段で代替できるか、また代替にどれほどの時間やコストがかかるか。
- 復旧の難易度: 業務が停止した場合、その復旧にどの程度の時間、費用、専門知識が必要となるか。
これらの観点から、特に停止が許されない、または停止すると事業の存続が危ぶまれる業務を「重要業務」として特定します。例えば、製造業であれば主要な生産ライン、サービス業であれば基幹サービス提供、小売業であれば販売・決済システムなどが該当するかもしれません。
ステップ2:業務停止許容時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)を検討する
重要業務を特定したら、次に、それらの業務をどれくらいの期間停止させても許容できるか、また、どこまでの情報があれば復旧できるかを考えます。
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RTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間) 緊急事態が発生した後、重要業務を「いつまでに復旧させるか」の目標時間です。例えば、「基幹業務システムは24時間以内に復旧させる」「顧客対応業務は3日以内に再開する」といった形で設定します。現実的な目標を設定することが重要です。
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RPO(Recovery Point Objective:目標復旧時点) 緊急事態が発生する前の「どの時点のデータまで戻せれば良いか」の目標です。例えば、「前日までのデータは最低限必要」「過去1時間分のデータは失われても許容範囲」といった形で設定します。RPOが短いほど、より頻繁なデータバックアップが必要となり、コストも高くなる傾向があります。
これらの目標を設定することで、具体的な対策を検討する際の方向性が明確になります。
ステップ3:重要業務を守るための具体的な対策を考える
特定した重要業務を、RTOとRPOの目標に沿って復旧・継続させるための具体的な対策を検討します。
1. 代替手段の検討
- 連絡手段: 会社の固定電話やインターネットが使えない場合に備え、従業員や主要取引先との連絡手段(携帯電話、SNS、衛星電話など)を複数確保し、緊急連絡網を作成します。
- 情報共有: 紙媒体での重要書類のバックアップ、クラウドサービスを活用したデータ共有、外部サーバーへのバックアップなどを検討します。
- 業務場所: 事業所が使用不能になった場合の代替拠点の確保、在宅勤務やサテライトオフィスでの業務継続の可能性を探ります。
2. 資源の確保
- 人手: 緊急時に誰がどの業務を担当するかを明確にし、複数の担当者を置くことで、特定の担当者が不在の場合でも業務が滞らないようにします。また、従業員の安否確認体制も重要です。
- 物資: 災害時に必要となる水、食料、非常用電源、医療品、燃料などの備蓄を検討します。
- 資金: 緊急時に必要となる資金の確保や、金融機関との連携、融資枠の確認などを行います。
3. 緊急時の連絡体制の確立
従業員、主要取引先、顧客、金融機関、自治体、警察、消防などの連絡先リストを整備し、緊急時に誰にどのように連絡を取るかを明確にします。複数の連絡手段を想定し、定期的な確認が必要です。
中小企業が実践するためのヒント
- 既存リソースの活用: 新たに全てを作成するのではなく、現在使用している業務マニュアル、顧客リスト、従業員連絡網などをBCPの土台として活用しましょう。
- 完璧を目指さない: まずは、自社にとって最もリスクの高い「重要業務」に絞って対策を立て、それを最低限のBCPとして運用を開始します。その後、段階的に改善・拡充していくアプローチが現実的です。
- 行政・専門機関の支援を活用: 国や地方自治体、商工会議所、中小企業診断士などが提供するBCP策定ガイドラインやテンプレート、相談窓口、補助金制度などを積極的に活用してください。
- 従業員との共有と訓練: 策定したBCPは、従業員全員に周知し、理解を促すことが重要です。定期的な訓練や研修を通じて、緊急時に従業員が適切に行動できるよう準備を進めましょう。
まとめ:第一歩を踏み出し、災害に強い企業へ
中小企業にとってのBCP策定は、事業の存続を左右する重要な経営戦略です。「何から始めて良いか分からない」という悩みは多くの企業が抱えるものですが、「重要業務の特定」はその具体的な第一歩となり、限られたリソースでも効果的な対策を講じるための羅針盤となります。
この記事でご紹介したステップは、決して特別な専門知識を必要とするものではありません。自社の事業を深く見つめ直し、優先順位を付けることから始めてみてください。小さな一歩からでも、着実にBCPを策定し、災害に強く、持続可能な企業へと成長させていきましょう。